院内ブログ

猫の肛門嚢(腺)破裂について

みなさん、肛門腺という言葉はご存知ですか?犬ではお手入れの一環として肛門腺絞りが一般的に認知されているかと思いますが、猫にも肛門腺があります🐱肛門腺はマーキングに用いられる分泌液で、肛門嚢という袋に貯留されています。通常は排便時に少量ずつ排出されますが、なんらかの原因により排出されなくなったり、肛門嚢に炎症が起きたりすると肛門嚢破裂を引き起こします⚡今回は肛門嚢破裂を起こした猫ちゃんの症例をご紹介します。

肛門嚢の位置(黄色い円)
肛門を中心として4時と8時方向に1対あります。

肛門嚢破裂の原因
肛門嚢が破裂してしまう原因には以下のようなものが挙げられます。
🐾加齢による筋力の低下(排便時に肛門腺が排出されなくなる)
🐾下痢や大腸炎による肛門嚢出口の閉塞、狭小化
🐾肛門嚢自体の炎症(肛門嚢炎)
🐾肛門腺の粘度上昇(食生活や体調によって変化するといわれています)
🐾肥満

ただ、定期的(月1回ほど)に肛門腺絞りを行っている子でも肛門嚢破裂を起こした例もあります。そのため上記はあくまで一例であり、原因不明・特発的な肛門嚢破裂もしばしば発生します。

注意したい症状
肛門嚢が破裂する前に猫ちゃんがお尻に違和感を感じ、お尻を頻繁になめる・床にこすりつけるなどのサインを出していることが多いです。このような症状が見られたら、できるだけ早く病院を受診するようにしましょう。実際に破裂してしまった場合は、お尻のあたりが濡れている・膿や血が出ているといった症状が表れます。また破れてしまった肛門嚢を目視で確認できることが多いです。猫ちゃんは痛みや違和感からお尻を舐め続け、どんどん皮膚が裂けていってしまうケースもあります。破裂に気がついた場合はすぐに病院で診察を受けましょう。

今回の症例
患者さんはMIXの5歳、避妊猫です。お尻から血が出ているとのことで来院されました。
見ると肛門嚢が破裂し、肛門の横の皮膚が裂けている状態でした。
破裂や皮膚の裂傷が軽度の場合は、無麻酔で洗浄や処置を行うことで治癒が期待できます。しかし今回の症例は裂傷範囲が広く、痛みも強いため、麻酔をかけて破裂した肛門嚢を摘出し皮膚を縫合する処置を行うことになりました。

※手術の画像があります

こちらが患者さんのお尻の状態です。(黄色いのは消毒液です)
向かって左側に大きく皮膚欠損があるのが分かります。青い円の中は皮膚が壊死している部分です。壊死部をそのままにして縫合しても、傷がくっつきません。そのため壊死組織をメスやハサミで取り除き、治癒を促進してあげる必要があります👌ちなみにこの処置を「デブリードマン」といいます👀

デブリードマン後の状態

壊死部を取り除き、傷口と内部を洗浄しました。破れた肛門嚢や不要な組織を取り除き、できる限り傷口が合わさりやすいようにします。

縫合後の状態です。必要に応じて排膿や内部の洗浄ができるよう、あえて閉じきらないように縫っています。
術後は数日~1週間おきの再診とし、傷口のチェックを行いました。患部の治癒は良好で順調に治り、2週間後に抜糸しました。

赤丸の中が縫合した場所

抜糸後の状態です。傷は綺麗に治り、排便や排尿にも支障がありません。これにて治療終了です👌✨

まとめ
猫の肛門腺破裂は珍しい病気ではなく、幅広い年齢層に起こりえます。
傷口の痛みから元気や食欲がなくなることもありますが、協力的にお尻周りを見せてくれる子は少ないためお家では気がつきにくいです😥
いつもと様子が違う、お尻を気にしているなどの症状がありましたら一度病院で診察を受けるようにしましょう😊